2025年、日本全国で熊(クマ)による人身被害が過去最悪を記録する中、一つの興味深い事実があります。
それは「九州には野生の熊(クマ)が存在しない」ということです。
現在、北海道や東北を中心に連日クマの目撃情報が相次ぎ、対策が急務となっている一方、九州地方ではクマの危険性とは無縁の生活が続いています。
なぜ九州だけにクマがいないのでしょうか?
本記事では、
熊(クマ)が九州にいない理由!本当にいないのかと今後の出没する可能性も解説
と題しまして、
九州からクマが絶滅した理由、
本当に今いないのかという疑問、
そして、今後クマが九州に出没する可能性などについて詳しく解説します。
九州のクマ絶滅宣言とその背景
環境省による公式な絶滅宣言
2012年、環境省はツキノワグマが九州から絶滅したことを正式に宣言しました。
この決定は、数十年にわたる生息状況調査と科学的根拠に基づいたものです。
実は、九州産のツキノワグマの確実な記録は、1941年に大分・宮崎県境で確認されたオスの捕獲にまでさかのぼります。
その後、1957年に子グマの腐乱死体が発見されたという記録は残っていますが、確実な生息を示す証拠はありません。
「最後のクマ」論争と遺伝子解析による真実
1987年11月、大分県豊後大野市の祖母・傾山系で1頭のオスのクマが捕獲されました。
当初、このクマが「九州最後のツキノワグマ」だと考えられていましたが、2010年に森林総合研究所が行った遺伝子解析により、衝撃の事実が判明します。
というのも、このクマのDNA型は福井県から岐阜県にかけて分布する本州のクマの遺伝子タイプと一致していたのです。
つまり、1987年に捕獲されたクマは、九州に野生で生息していた個体ではなく、飼育施設から逃げ出したか、人為的に持ち込まれた本州産のクマか、またはその子孫だった可能性が高いということです。
この結果により、九州産ツキノワグマの確実な最後の記録は、1957年の子グマの死骸となっています。
九州からクマが絶滅した主な理由
1. 過剰な狩猟と駆除
江戸時代から明治・大正時代にかけて、クマは農作物を荒らす害獣、そして人を襲う危険な動物として認識されていました。
九州は雪が少ない地域であるため、冬眠中のクマを捕獲することが相対的に容易でした。
クマの毛皮や肉、さらには薬になるという内臓を目当てに、狩猟が積極的に行われました。
昭和初期には「熊塚」という捕獲したクマを慰霊する風習が存在するほど、クマの捕獲が一般的に行われていたことが記録に残されています。
2. 戦後の拡大造林政策による生息環境の劇的な変化
九州からクマが絶滅した最も重要な要因の一つが、戦後の拡大造林政策です。この政策により、天然の広葉樹林がスギやヒノキなどの人工林に置き換わりました。
ツキノワグマの冬眠前の重要なエネルギー源はドングリ(コナラやクヌギなど、ブナ科の落葉広葉樹の実)です。
しかし、人工林にはこうした広葉樹がほとんど育たないため、クマが冬眠に必要なエネルギーを確保できなくなったのです。
現在の九州の人工林率は全国平均の41%を大きく上回っており、福岡県63%、佐賀県67%、熊本県61%、大分県61%、宮崎県57%という高い数値を記録しています。
特に宮崎県は「杉の国」として知られ、人工林率が極めて高い地域です。
一方、東北地方では人工林率が40%程度に留まっているため、天然の広葉樹林が豊富に残されており、クマの生息に適した環境が保たれています。
3. 生息地の分断化と孤立化
九州のツキノワグマは、複数の孤立した個体群に分かれていました。
各地域の山々は人間による開発や土地利用の変化によって分断され、クマが個体群間を移動することが困難になりました。
ツキノワグマは広い活動範囲を必要とする動物です。生息地が分断されると、遺伝的な多様性が失われ、個体数が減少しやすくなります。
祖母・傾山系など、かつてはクマの生息が比較的確認されていた地域でも、やがて孤立した小規模な個体群となり、絶滅への道を辿ることになったと考えられています。
4. 地理的・気候的な要因
九州は本州と海で隔たれた地理的条件にあります。
かつて絶滅した個体群では、自然に他地域からの個体が補充されることが、本州に比べて極めて難しい環境にありました。
また、九州は相対的に温暖で、冬眠する期間が短い地域です。
このため、冬眠に適した深い地層の穴を掘ったり、十分なエネルギーを確保したりすることが、本州のクマよりも難しかった可能性があります。
本当に九州にクマはいないのか?目撃証言と調査結果
目撃情報は存在するが物的証拠に欠ける
九州、特に大分県と宮崎県の県境に位置する祖母・傾山系では、登山者からのクマ目撃情報が定期的に寄せられています。
1988年にはWMO(野生生物保全基金)が、2009年にはJBN(日本クマネットワーク)が、祖母・傾山系における広域の生息調査を実施しました。
しかし、これまでのところ、毛髪や足跡、糞などの物的証拠は発見されていません。
写真や物的証拠なしに目撃情報のみでは、学術的にはクマの生息を確定することができないのが現状です。
学会での定説の確立
実は、1932年(昭和7年)に発行された動物学雑誌では、九州帝国大学教授の大島廣が「九州にクマは生息しない」というのが学会での定説であると述べています。
つまり、学術的には既に昭和初期の段階で、九州からクマが事実上絶滅したと認識されていたのです。
その後、2010年の遺伝子解析による1987年のクマの「本州産」確定、そして2012年の環境省による正式な絶滅宣言へと至りました。
今後クマが九州に出没する可能性はあるのか?
関門海峡が新たなホットスポット
2025年現在、九州の隣県である山口県では、クマの目撃情報が急増しています。
山口県の2025年度のクマの目撃件数は既に200件に達し、対策訓練が実施されるほどの警戒態勢が敷かれています。
下関市と北九州市を隔てる関門海峡は、最狭のところで約600~700メートルの距離しかありません。
このため、SNSでは「関門海峡を突破させるな」といった声も上がっています。
泳ぎで渡る可能性はあるのか
森林総合研究所九州支所の安田雅俊専門家によると、短距離であれば、クマが関門海峡を泳いで渡ってくる可能性は理論的には存在するとのことです。
ツキノワグマは泳ぎが得意な動物で、新しい生息地を求めてオスが長距離を移動することはあります。
ただし、以下の理由から、九州へのクマ上陸の可能性は極めて低いと考えられています。
■潮流の速さと船舶交通:関門海峡は潮流が速く、船の往来も極めて多い地域です。これらの条件は、クマにとって渡海を極めて困難にします。
■心理的障害:橋やトンネルといった人工物は、野生動物にとって心理的な障害となることが多く、クマがこれらを利用して移動する可能性は低いとされています。
■繁殖可能性の低さ:仮に1頭のクマが関門海峡を渡ってきたとしても、九州で増殖して定着個体群を形成することは、極めて難しいと考えられています。複数のクマが同時に移動し、かつ繁殖できる環境が必要ですが、これが実現する確率は非常に低いのです。
50年の長期スパンでの可能性
安田専門家は「5年後は難しいが、50年後には可能性があるかもしれない」とも述べています。
これは、山口県でのクマの個体数が増加し続けた場合、数十年の長期スパンで、九州への自然な分散が起こる可能性を示唆しています。
ただし、この場合でも、九州の人工林率の高さと生息地の不適切性により、クマが九州で安定して生息することは困難だと考えられます。
四国のクマとの比較から見える九州の将来
四国の絶滅危機個体群
四国には、徳島県と高知県にまたがる剣山系とその周辺に、ツキノワグマが生息しています。
ですが、その数は極めて少なく、環境省レッドリストで「絶滅の恐れのある地域個体群」に指定されています。
昨年度確認されたツキノワグマはわずか26頭で、東日本の数百~数千頭と比べると、圧倒的に少数です。
四国のツキノワグマはアジア大陸の中でも古い系統を持つ希少な個体群であり、独自の進化を遂げてきたとみられています。
四国のクマが完全に絶滅すれば、地球規模での生物多様性喪失につながることになるため、関係機関による保護活動が急務とされています。
九州と四国の共通点と相違点
九州と四国は、ともにツキノワグマが絶滅、あるいは絶滅寸前の状況にあります。
しかし、四国では数十頭のクマがまだ生息しており、国定公園や鳥獣保護区の指定など、保護措置が取られています。
一方、九州ではすでに野生個体がゼロの状態です。四国のクマも海を隔てているため、九州への分散は考えられていません。
現在の九州の野生動物管理と課題
クマ以外の野生動物との共生
九州にはクマがいない代わりに、イノシシやシカといった他の大型野生動物による被害が増加しています。
熊本県猟友会の統計によると、2024年度のシカの捕獲数は1,812頭であったのに対し、2025年度は10月末までの7カ月間で既に1,508頭に達しており、昨年度を上回るペースで増加しています。
イノシシについては横ばいだとのことです。
このように、九州では「クマがいない」という相対的に安全な状況がある一方で、他の野生動物による被害対策は依然として大きな課題となっています。
ハンター不足による管理の課題
全国的に進行しているハンター不足の問題は、九州でも深刻です。
熊本県猟友会は、若手ハンターを確保するために、2025年12月に青年部を立ち上げることを決定しました。
狩猟歴50年以上のベテランである同会の髙橋重徳会長も「なかなか追いつかない。とってもとってもなくならない」とコメント。
野生動物管理の人員不足が深刻な状況にあることが明らかになっています。
まとめ:熊(クマ)が九州にいない理由と今後の可能性について
2025年末現在、九州にクマはにいません。
九州から熊(クマ)が姿を消した理由は、過剰な狩猟、戦後の拡大造林による生息環境の劇的な変化、生息地の分断化、そして九州という地理的に孤立した条件が複合的に作用した結果と見られます。
1957年に子グマの死骸が確認されて以降、確実な生息記録がなく、2012年の環境省による正式な絶滅宣言に至りました。
しかし、山口県でのクマの個体数増加と関門海峡という地理的な近さから、将来的に九州で熊が生息するようになる可能性について議論が高まっています。
専門家の見解では、短期的に見た場合の九州へのクマ上陸の可能性は極めて低いものの、50年単位の長期スパンでは「可能性がないとは言い切れない」とされています。
九州は高い人工林率という特性から、仮にクマが流入したとしても、ドングリなどの食料不足により、定着して個体群を形成することは困難だと考えられています。
むしろ、現在と今後の九州の野生動物管理の主要な課題は、クマではなく、イノシシやシカといった増加し続ける他の大型野生動物との共生であり、同時にハンター不足への対応が急務となっているのが現状です。
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